警備業界の世界で最も権威があり、どこの国に行ってもその価値が認められているAmerican Society for Industrial Security (ASIS International)のCertified Protection Professional (CPP)でも紹介されるRobert L. Oatman氏の「The 6 Principles (ボディガードの基本6カ条)」は、ボディガードを目指す人には知っておいて欲しいです。
詳しく知りたい方は、Oatman氏の著書「The Art of Executive Protection」を読んでみるといいでしょう。1997年出版と少し古い本ですが、基本は変わりませんので勉強になると思います。もうすでにボディガードの仕事をしている人にとっては少し退屈かもしれませんが、これからボディガードを目指すという方には読んでおいて損がない本だと思います。
Oatman氏の言う「警護の6カ条」は以下です。
- Shape Destiny
- Anybody can protect anybody
- If you have to stop and think about it, it’s too late
- EP Specialists get their clients out of trouble and keep them out of trouble
- For the executive, security and convenience are usually at opposite ends of a continuum
- The greatest tool in executive protection is the EP specialist’s mind; technology is of limited use.
1つずつ解説していきましょう。
第1カ条の「Shape Destiny」ですが、直訳すると「運命を決める」となります。しかし、これだけでは意味が良く分かりません。そこで、ASISでは「Prevent and avoid danger」と分かりやすいように書き換えられています。つまりボディガードは、常に全ての状況を把握して、危険を未然に防がないといけないということです。
クライアントがホテルに泊まる際、プロのボディガードはアドバンス(先着警護/先遣隊)を先に送り部屋を確認させます。ここで覚えておかなければならないことが、手抜き仕事をしてもこのアドバンスは死にませんが、クライアントはその手抜き仕事が原因で死ぬこともあるということです。
第2カ条の「Anyone can protect anyone」は、ボディガードは誰にでもなれる仕事だということです。ボディガードになるのにIQ180の天才や身長2mの巨人である必要はありません。誰でもなることが出来るボディガードですが、己の弱みを理解する必要はあります。誰にでもなにかしらの弱みや苦手な物があるはずです。弱みや苦手なものはチームメイトに補ってもらい、自分もチームメイトの弱点を補えば、完成型のボディガードの出来上がりです。
第3カ条の「If you have to stop and think about it, it’s too late」は、緊急時になってから考えていては遅すぎるということです。ボディガードは、身体が勝手に動くように、常日頃から色々なシチュエーションを想定して訓練をすることで肉体的にも精神的にも鍛えておかなければなりません。
第4カ条の「EP Specialists get their clients out of trouble and keep them out of trouble」は、ボディガードの役割を表しています。前半部の「getting their clients out of trouble」は、トラブルから退避させるという意味です。例えば、ナイフを手にもった怪しい人物を発見した場合、敵を叩きのめしたり、逮捕したりすることよりも、即座にクライアントを車にエスコートし、その場から離れることが優先されます。後半部の「keeping the clients out of trouble」は、トラブルを回避するということです。一例としては、事前にクライアントとヒミツのサインを決めておき、クライアントがそのサインを出した時は、ボディガードがうまくクライアントをその場から連れ出し、危険な目や恥ずかしい目に遭うことを未然に防ぐなどがあげられます。
第5カ条の「For the executive, security and convenience are usually at opposite ends of a continuum」は、私は6カ条の中で一番大事だと思っています。「セキュリティ」と「自由」は対極なもので、そのバランスをうまくとることがボディガードには求められます。クライアントがタイトなセキュリティを望めば、その分クライアントの自由は減ります。逆にクライアントが自由を求めれば、セキュリティが弱まりリスクが増えます。自身の安全を第一に考えるクライアントの場合は、ボディガードが悩むことはありません。しかし、逆に「自由」を望むクライアントの場合、ボディガードはバランスに悩むこととなります。これはいくら経験を積んでもボディガードである以上常に付きまとう問題です。
第6カ条の「The greatest tool in executive protection is the EP specialist’s mind; technology is of limited use」は、「ボディガードとテクノロジーの進歩」でも少し書きましたが、テクノロジーは便利なものですが、それだけでは十分ではないということです。シークレットサービスのエージェントはみんな、拳銃を携帯しています。しかし、これまでの大統領暗殺の過去例を見てみると犯人に向かって撃ち返す時間の余裕はありません。銃を持っていても使えなければただの鉄くずです。こうしたことから、ボディガードはテクノロジーに頼り切らず、自分の経験、知識、感覚を頼りにするべきだということです。
これからボディガードを目指す方は、この6つの基礎を覚えておいて損はありません。この6つの基礎は、ボディガードになったら常に頭の片隅に入れておかなければならないことです。
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