以前、OCスプレーについての記事を書いたことで、著者が護身目的での催涙スプレーの携帯を推奨していると勘違いしている方がいるようです。確かに著者は、アメリカ在住時に国連やその他のLE訓練施設で催涙スプレーの訓練を幾度と受けています。それらの訓練では、実際に催涙スプレーを顔に受け、その威力を実際に体感しています。LEOのノンリーサルウェポンとしての催涙スプレーは、とても効果的な装備の1つです。しかし、催涙スプレーはユーザーの練度、そして使用する場所によって全く異なる結果を招いてしまう道具でもあります。それ故に一般の方が護身目的で携帯することにはメリットよりもリスクが多く、オススメできません。
日本で催涙スプレーを販売するウェブサイトを覗いてみると「簡単な操作で誰でも確実に使用でき100%効果を発揮します」だとか「女性や高齢者であっても、体格の大きな男性や凶器を持った相手を簡単確実に撃退できます」なんて紹介していますが、これは大きな間違いです。
以前の記事にも書きましたが、正しい使い方をしても効果を得られない場合もありますし、著者も含め特殊な訓練を積んだものは催涙スプレーを受けた状態でも攻撃の手を止めないように指導されています。催涙スプレーは、確実に相手の動きを止められるものではありません。
催涙ガスの主成分がCNガスからOCに変わったことから、催涙スプレー自体は軽犯罪法にある「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」には該当しない器具です。しかし、成分的には問題がなくても、あまり語られませんが使用法や使用後の対処を誤れば身体に重大な害を与えてしまうことも考えられます。以前の記事中にも書きましたが、日本で売られている催涙スプレーの大半を占めるストリームタイプは、近距離から目に直接発射すれば失明させてしまう可能性もあります。こうしたことを考えると、「護身のため」だけでは正当な携帯理由として認められず、最悪の場合には軽犯罪法に問われることもあるかもしれません。
Statistaの統計では、催涙スプレーを護身具として携帯する男性は4%だったのに対して女性は26%でした。日本の統計はありませんが、おそらく日本で統計を取っても似た結果になるかと思います。女性服は、男性服に比べてポケットが少ない傾向にあります。その為、催涙スプレーを携帯する女性の大半は、ポーチやハンドバックに入れて携帯しているることが予想できます。催涙スプレーを護身で使わなければならない場面は、突然、そして予期せず訪れることがほとんどです。どんなに頑張ってもAction vs. ReactionではどうしてもAction側に分があるので、ポーチやハンドバックから出して使用する催涙スプレーでは対応しきれません。しかも、ポーチやハンドバックの中身は催涙スプレーだけでなく、化粧品だったり他のものが入っていることが予想され、そうなると更に催涙スプレーを見つけ取り出すまでには時間がかかります。
サラダドレッシングを冷蔵庫から出して使用する前に一度軽く振ると思います。これは水分と油が分離してしまっている状態なのを振ることで一時的に混ぜるためです。催涙スプレーにも同じことが言えます。アメリカの警察官がどこに催涙スプレーを携帯しているか見てもらえれば分かりますが、他の装備と同様にサムブラウンに装備しています。最近の催涙スプレーは使用前に毎回振らなくても大丈夫な製品も多くなっているようですが、前職の国連警備隊では万全を期し、定期的にスプレーをホルスターから取り出し振るように指導されていましたし、腰に装備することで毎日のパトロールがスプレーに適度な振動を加える役目も果たしていました。長期に渡りポーチやハンドバックの奥深くにしまわれていた催涙スプレーは、いざ使ってみたら成分が分離や沈殿で本来の効果を得られないなんてこともありえます。
一般の方が護身で催涙スプレーを使うシチュエーションは大きく屋内と屋外の2つに分類することが出来ます。
屋内での使用の際に気をつけないといけないことは換気です。部屋のサイズにもよりますが、特に小さな部屋の場合には相手だけにとどまらず自身やただ同じ部屋の中にいただけ、催涙スプレーを使用したことを知らずに部屋に入ってしまった人など関係のない人までも巻き込んで被害を与えてしまう可能性があります。
屋外であれば、当然ながら風向きを考慮しないでスプレーを噴射してしまえば、相手に吹き付けるはずが自身にかかってしまうことだってあります。突然襲われ、びっくりした状態でほんの数秒で風向きまで計算して催涙スプレーを相手の顔に正確に吹き付けることが出来る人がどれだけいるのだろうか。かなりハードルが高いと思います。
護身目的で催涙スプレーを使用したのなら、スプレーを吹きかけた相手の介抱の必要はないでしょう。介抱の事を考える余裕があれば、一刻でも早く安全な場所に逃げるべきです。しかし、万が一関係ない人にかかってしまった場合や、勘違いでスプレーを吹きかけてしまった場合にはきちんと介抱する必要があります。介抱の仕方を知っておくことは、自身が催涙スプレーをかけられてしまった際の対応にもつながります。
何度も書きますが一般の方が護身目的で催涙スプレーを携帯することには著者は絶対にオススメしません。しかし、何か正当の理由がありどうしても携帯しないといけない場合には、使用後の対処法を含め、正しい使用法をしっかりとマスターしておく必要があります。
※当記事は、個人的見解であって催涙スプレーを護身具として推奨する個人や団体を批判するものではありません。
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