ボディガードは、日頃から周囲に注意をしながら警護に当たっています。そんな中で怪しいと思う人物を見つけた際には、チーム内でその人物の情報を共有します。では、どんな情報を共有すればよいのでしょうか。
ボディガードの主な任務はクライアントの安全を護ることで、不審者やアグレッサーを捕まえることではありません。そのため、怪しい人物を見つけても、100%の確信がない状態でクライアントから離れアグレッサーにアプローチすることはかなり稀です。一か所にとどまっている状態であれば、それなりに人物の詳細を覚えるのに十分な時間がある場合もあります。しかし、毎回そうした時間的余裕があるとは限りません。おそらく、記憶するのに十分な時間がないことの方が多いのです。
チームで情報共有が出来るよう、怪しい人物の詳細を瞬時に記憶するのに便利な記憶方法を確立することが非常に重要です。私の場合は、活動拠点がアメリカだったため、下の表のように英語の頭文字で「ABCDEFG」と覚えるようにしていました。学生時代に日本史の年号を語呂で覚えたことがある人も少なくないはずです。日本語で覚える場合には、上手く語呂合わせすると良いでしょう。あらかじめABCDEFGを書いた3×5カードをポケットに忍ばせておき、不審者を見つけた際にはカードにメモをサッと取るようにしていました。なお、このメモは、レポートを書く際にも役立つので、すぐに捨てることがないように大事に保管しておきます。
A | Age |
B | Build/Size |
C | Color (*IC Code) / Clothing incl footwear |
D | Distinguishing marks (Tattoo, Scars…) |
E | Elevation (Height) |
F | Face (Shape, eyes, nose, ears) |
G | Gender |
Aは、Age(年齢)です。ピンポイントで年齢を当てることは難しいので、出来れば18~23歳、20~25歳といったように5歳ほどのレンジで、無理なら20歳代、30歳代といったように10歳ほどのレンジで見極めるようにしていました。海外の人の年齢を見極めるのは、見慣れていないと困難です。映画が好きな方は、好きなハリウッドスターの年齢を調べたりすると、楽しみながら傾向がつかめます。
Bは、Build/Size(体格)です。英語だとFat, Husky, Slim, Muscularといった感じです。日本語なら、肥満型、小太り、がっちり、スリム、やせ型、筋肉質…といった感じで表します。
Cは、Color(肌色)やClothing incl Footwear (靴も含む服装)です。服装は、着替えられてしまえば意味のない情報となってしまいます。しかし、大きな会場で、移動する怪しい人物をチームメイトに伝える際には、役立ちます。肌色は、私はイギリスの警察がレポートを書く際に使用するIC Code (Identity Code)/6+1コードを参考に自分なりのICコードを制作して利用していました。※更に突き詰めたSelf Defined Ethnicity (SDE Code)/16+1コードもあるようですが、ボディガードにはここまでの詳細は必要ないかと思います。
【イギリスの警察で使われているICコード】
日本人が、同じアジア人の違いが分かるように、イギリス人は白人の中でも違いを判別できるようです。日本人には、北欧の白人なのか、南欧の白人かを区別するのは少々ハードルが高いでしょう。
IC1 | 白人(北欧) |
IC2 | 白人(南欧) |
IC3 | 黒人 |
IC4 | アジア人(南アジア) |
IC5 | 日本人、中国人、韓国人 (東アジア) |
IC6 | アラブ、北アフリカ |
IC7 | 不明 |
【私独自のICコード】
多人種都市のニューヨークに長く暮らしたことで、白人でも北米の白人とヨーロッパの白人、黒人でもアメリカやカリブの黒人とアフリカの黒人などの判別がなんとなくつくので下のようなICコードに仕上がりました。
IC1 | 白人(アメリカ、カナダ) |
IC2 | 白人(ヨーロッパ) |
IC3 | 黒人 |
IC4 | 黒人(アフリカ人) |
IC5 | アジア人(日本人、中国人、韓国人) |
IC6 | その他のアジア |
IC7 | アラブ人 |
IC8 | ヒスパニック |
IC9 | 不明 |
【初心者向けのICコード】
外国人に慣れていない人にとって、どこの地域の白人七日、黒人なのか判別は難しいので、最初は大まかな判別から始めると良いでしょう。
IC1 | 白人 |
IC2 | 黒人 |
IC3 | アジア人(日本人、中国人、韓国人) |
IC4 | その他のアジア人 |
IC5 | アラブ人 |
IC6 | その他 |
Dは、Distinguishing Marksのことです。刺青や傷などのことです。最近は日本でも刺青をファッションとして入れている人がいますが、まだまだ欧米に比べると少なく、していても目立たない場所の人が多い傾向にあります。さすがにマイク・タイソンや瓜田純士のように顔に派手な刺青をしている人は多くありませんので、厚着の冬にこうした刺青や傷を見つけるのは容易ではありませんが、夏になり半袖のシャツや短パンをはくようになると腕や足に入れた刺青や傷から人を特定することも可能になります。
Eは、Elevation(身長)です。写真を撮れれば、後で色々なアプリなどを利用しておおよその身長が割り出せますが、警護中のボディガードには写真を撮っている暇はありません。その場合には、自身の身長やドアなど標準サイズがあるものを利用して推測するようになります。日本のドアは、最近では2mが標準となっていますが、古い建物では180㎝程度のことが多いようです。身長170㎝の著者が見上げる相手の場合には、170㎝以上で、ドアをくぐるのにかがんでいるようであれば2m以上と言った感じで大体の身長を割り出します。
Fは、Face(顔の特長)です。丸顔やエラが張った顔といったように輪郭を始め、目、鼻、口、耳、髪、髭などのパーツについても記憶します。目は、色と形を、鼻は形と大きさを記憶します。東京オリンピックでメダルラッシュの快進撃を続ける柔道をする人には、耳がカリフラワーのように変形してしまう耳介血種の人が多くいます。ラグビーやレスリングの選手にも同じような傾向がみられます。こうした特徴の他にもピアスなどの穴など耳には意外に特長が良く現れているのです。
GはGender (性別)です。ジェンダーに関しては色々議論がありますが、とりあえず男性か女性かの2択で良いかと思います。
因みに著者を参考に表すと以下のようになります。
A | 40S |
B | ぽっちゃり |
C | IC5 アジア人(日本人) |
D | 無し |
E | 170㎝ |
F | 面長顔、目は茶色 |
G | 男性 |
日本だとあまり特長がなく、この情報を共有されてもどの人物の事か判別するのは困難でしょう。これは不審者のディスクリプションではないので当然のことです。経験を積んでいくことで、他の人物とはあきらかに異なる不審者のみが持つ特徴を見つけられるようになります。
他にも時計をしている腕から利き手を判断したりすることも可能です。右利きに比べて、数が少ない左利きの場合には、これも多少の判断材料となります。訛りなんかも特徴に1つです。
人の顔よりもスマートフォンの画面に目を向けている時間の方が長いという人も増えた現代では、人の特長を瞬時に掴むことが苦手な人が多いように感じます。そこで、ボディガードに必要な鋭い観察眼を鍛えたい方は、休みの日などに全体が見渡せる2,3階にあるカフェの窓際で人間観察などをすると良い訓練になるのでお勧めです。
※耐水のメモ帳もなかなか便利で、現役時代活用していました。
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