出張等の移動で飛行機を使う際には、(特に大所帯の場合には)CPチームからBaggage Officer(s)を選出することで空港での滞在時間を減少させることが可能です。これまで何度も書いていますが、リスクを減らすのにはエクスポージャータイムを減らすことが有効です。Baggage Officer(S)は、出発時には警護対象者(以下V)ならびにVに同行する警護チームのメンバー全ての預け荷物を空港に運びチェックインを済ませます。これによりVは無駄に空港で時間を過ごさずに搭乗時間までに空港に到着すればよくなります。利用する航空会社によっても扱いは異なりますが、出来れば荷物は全てBaggage Officer(s)の名前で預けることが好ましいです。というのも勘が良い方は既に気がつかれていると思いますが、Baggage Officer(s)は、目的地到着後空港に残り、全員分の荷物を集めます。その際に何かのミスで、預けた荷物が紛失されたり、破損があった際の手続き時に預けた本人でないとダメなんてことがある為です。わざわざ荷物を待たずに空港を出た人間を荷物の紛失や破損の手続きの為に空港に戻らせるなんてことになったら計画が台無しです。
スリルやアクションを求めて警護の道に進んだのに、空港に残って荷物を集める仕事をさせられるとは想像をしておらず腐る人が少なからずいます。国連本部でも、チームで一番経験が少ない新人が任される仕事だったのですが、ここで心が折れてしまう人がいました。しかし、Baggage Officer(s)の仕事は、実は高いマネージメント能力やコーディネーション能力が求められる仕事で、マネージメント側からするとその新人の能力を見極めるのに最適な任務なのです。
自分の荷物なら多少数が多くても、形や色を覚えることが出来ますが、他人の荷物となるとそうはいきません。数十個の荷物の特長を全て覚えることはほぼ不可能です。そのため、一目で分かる工夫を施します。国連本部では、国連のロゴが入ったラゲージタグがあり、それを付けたうえで、私は派手な色のケーブルタイ(結束バンド)を荷物につけて判別するようにしていました。荷物が移動中に紛失、破損などしていた際には、空港でクレームの手続きをしなければなりません。そのため、荷物のサイズ、色、ブランド、傷などを1つずつ事前にチェックし、まとめて置くことも重要です。
もし荷物が出てくるのを空港で待ちたいというVであれば、ラウンジや個室などを事前にコーディネートしておくことを忘れはいけません。
著者もBaggage Officerとして出張に出た際に、とても面白い経験をしたことがあります。A国からB国に移動の際、当初はVを含めた全員が商用機で移動するはずだったのですが、直前にB国から専用機のオファーがありそちらで移動することに変更されました。しかし、その専用機は、重量制限があり荷物を積むことが出来ないというのです。そしてその結果、私1人のみ全員の荷物を持って当初の予定の商用機でB国に移動することになりました。その時の預け荷物の総数は、なんと45個でした。A国の空港に到着し、45個の荷物をチェックインをしようとしますが、当然1人でそんなに大量の荷物を無料で預けられるはずがありません。色々交渉しましたが追加荷物費30万円を払わない限り45個全ての荷物をB国に運べないということでした。上司からは、10万円の現金を預かっていましたが、20万円もオーバーしています。金額がかなり高額なので一瞬悩みましたが搭乗までに時間もあまり残っておらず、相談する相手もいないので、自己判断で自身のクレジットカードを使って支払いを済ませました。B国到着後も、大量の荷物なので1人のポーターでは運びきれませんので、数名のポーターを色々なところから引っ張ってきて、どうにか45個全ての荷物を空港の外で待機していた車まで運び出しました。他に選択肢がなかったとはいえ、当時まだ新人だった著者が指示を待たず自身で的確な判断を下したことなどが高く評価され、同期よりも早く色々な任務を任されるようになりました。
晴れて警護業界に入れても、最初はこうした地味に大変な仕事をすることになることを知っておいてください。事前にこうした仕事もあることを知っているのと、知らないでは心構えも異なりますし、受けるショックも違います。
カテゴリー
投稿一覧は、こちら