ニュースなどで総理大臣や都知事が映る際、眼光鋭いSP(警視庁の警護官)がカメラ目線でピタッと真後ろに立っているのを良く見かけます。これは日本だけの光景ではありませんが、欧米ではあまり見かけません。
私が約10年間警護の仕事をした国連本部警備隊でも、「メディアが欲しい絵は、あくまで警護対象であって警護官ではない!」と幾度も指導されました。
総理や都知事よりもThreat Level(脅威レベル)が高い米国大統領でも、引いた画面でなければ警護に当たるシークレット・サービスのスペシャル・エージェントはカメラに映らない場所や目立たない場所にポジションを取っています。
事前にスケジュールに組み込まれた会見やインタビューであれば、警護対象者がメディアの前に姿を見せる前に、警護官があらかじめメディアのセキュリティチェックをします。厳しいところになると、事前に申し込みをしたメディア以外は取材をさせないといった対応も普通に行われます。予定になく、街中や移動中に突然取材を申し込まれることもありますが、こういった場合に備え、ボディガードは事前に警護対象者に希望を聞き、脅威レベルも考慮したうえでメディアへの対応を決めておきます。事前の準備が周到であれば、カメラにしっかり映りこんでしまう場所にポジションを取らなくても、十分に警護は出来るというのがアメリカや欧米に多いスタイルです。
これは文化の違いなので、どちらが優れていて、どちらがダメという話ではありません。国が変われば文化が異なり、そして警護の仕方も変わります。その国の警護のトレンドを知るには、その国の文化を知ることがとても重要です。その国の文化が分かると、警護の傾向もよく理解できるようになります。
日本の独特な警護スタイルといえば、SPによる車列での「箱乗り」が挙げられます(※なんと言うか忘れてしまったのですが、SPの間では「箱乗り」とは言わないらしいです)。白い手袋をしたSPが窓から半身を乗り出し、笛と誘導灯で周りの車に車列が通ることを知らせるあれです。これは色々な国で警護車列を見てきましたが、日本だけでしか見られない独特な警護スタイルです。最近では、煽り運転などの問題もありますが、海外と比べると治安がよく、緊急車両が通る際にはサッと道を譲るマナーの良いドライバーが多い日本では、体当たりされたり銃撃されたりといった心配よりも、後で横柄な態度だったなどと苦情が来ないように、納税者に対しての誠意を見せることがより重要なのでしょう。海外の警護人からはあまり理解を示してもらえない警護スタイルですが、実際これで特に大きな問題になったことがないので、これはこれで良いのだと思います。
エチオピアでは、警察が納税者である市民に対して丁寧に接するといった考えは、あまりないようです。車列が渋滞にはまり身動きが取れなくなってしまったことがあったのですが、もともと高地で生活をしていて心肺機能が高いエチオピア人の警護官たちは、車から飛び降り道路を縦横無人に走りながら、周囲の車の窓ガラスをバンバン手で乱暴に叩きながら、何かを怒鳴り、道を作り、車列は渋滞から抜けることが出来たなんてこともありました。日本では考えられない方法ですが、エチオピアではありなのです。
海外で警護の仕事をしたいと思っている方は、行く先々の文化を理解し、受け入れられる柔軟な脳が必要です。文化を理解して受け入れることで、現地の人ともすぐに打ち解けることが出来、警護もしやすくなります。日本人には、人見知りの人も多くいますが、それは別に悪いことではありません。人見知りの人は、言い方を変えれば「慎重な性格」です。警護には、ミスをしないように事前に入念な準備をすることがとても重要で、そのため慎重な性格の人が向いているとも言えます。
(↑)アメリカのボディガードが異文化を知るのに、よく勧められる本「Kiss, Bow, or Shake Hands」。
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