Friendly Fireとコミュニケーション

Friendly Fire」とは、味方からの誤射のことを意味します。Friendly Fireは、戦場などの混乱した環境では度々起きてしまっています。最近のケースで最も有名なのは、元NFLのスーパースター、パット・ティルマン氏のケースだと思います。ティルマン氏は、2001年に起きた同時多発テロをきっかけにアメリカ陸軍に志願入隊し、2004年に派遣先のアフガニスタンで友軍の誤射により死亡しました。2010年には同じアフガニスタンでテロリストの襲撃を受けた国連ゲストハウスで勇敢に応戦した国連警護官ルイス・マックスウェルが仲間であるはずのアフガニスタンの警察官の銃弾によって命を失いました。

マックスウェルのケースがそうだったように、Friendly Fireは戦場でだけ起きるとは限りません。そのためボディガードは、Friendly Fireが起きぬよう対策を講じる必要があります。チームメイト全ての顔がしっかり分かっている少人数の任務や単独組織での任務なら、Friendly Fireのリスクはそこまで高くありません。しかし、大人数の任務や複数の組織が合同で行う任務の際には、Friendly Fireのリスクは必然と上昇します。先日紹介した徽章やバッジを利き手側(つまり銃を携帯する側に)につけるのは、相手に自分の身分をさらしFriendly Fireのリスクを軽減する役目も持っています。

イスラエルのシークレットサービスとも言える「Shin Bet (シンベット)」では、小さく折りたたんでポケットにしまっておける帽子を用意しており、他組織と合同で警護任務にあたる際にはその帽子をチームに渡し、銃撃戦などになった際にはそれを被ることで、現地の警察官たちも間違って他組織の仲間を撃ってしまわないように対応しています。

(写真上)シンベットから渡された帽子をかぶってみる著者。

国連本部警護チームも、シンベットのFriendly Fireへの対策を参考に、他組織と合同で警護任務をする際には同じように折りたたんでポケットにしまっておける帽子を使用していました。

(写真上)右側面には、「警察」がヘブライ語で書かれています。
(写真上)左側面には、英語でPolice。

上記のようにFriendly Fire対策としての装備や道具はありますが、最終的には人です。十分な対策を取っていても、きちんと情報が共有されていなければ何の意味も効果もありません。合同で警備、警護を担当する際には、最低でも1度は全員で顔合わせすることが重要なのは、仲間意識を築くと同時にFriendly Fireのリスクが軽減するからです。複数の組織が合同で任務をする際、一番難しいのが情報の共有、そしてコミュニケーションです。

私は、シュミニションを使った警護の訓練で、煙幕の中走ってくる男に向かい「止まれ」と命令にしたにもかかわらず突っ込んでくるので撃ってしまったことがあります。煙幕から出てきた男は、仲間でした、つまりこれが実弾であればFriendly Fireです。なぜこのようなことが起きたかと言えば、その男と私は、その訓練では同じチームでしたが、日頃は違う所属だったために事前のコミュニケーションが十分でなかったことが原因でした。

近年は悪しき習慣と言われることも多い「飲み二ケーション」ですが、警護業界ではまだまだ役立つと考えている人が多くいます。私もそんな1人で、海外での先着警護の際は飲みニケーションを活用し、本番を迎える頃にはすっかり数年来の友人のような関係になっていました。そして、これが海外での警護任務を上手くこなせていた秘訣の一つでもありました。もちろん、お酒の席を設けなければ仕事にならないということではありません。2021年4月現在、まだCOVID-19の影響があり、なかなか飲みに行くことは出来ない現状ですし、お酒を飲まないという方もいると思います。ただ、海外で警護任務に携わりたいと思っている方は自分なりのコミュニケーション術を取得する努力してください。


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