あまりにも有名なことわざなので、知らない人はいないと思いますが「百聞は一見に如かず」は、人の口から100回聞いても、自分の目で1回見るには及ばないとう意味のことわざです。数多くあることわざの中でも、警護や警備をしていてこれ以上に「まさに!」と実感できることわざはないかと思います。
アリスター・スミス氏によると学習スタイルは、(1)Visual[視覚], (2) Auditory[聴覚], (3) Kinetic[身体感覚] の3つに分類することが出来ます(3つの頭文字を取り、「VAKモデル」と呼ばれています)。視覚優位な人もいれば、聴覚優位もいるというように学習スタイルは人によって異なります。ただ本来、人間は視覚優位で、その割合は8割以上だと言われています。これが前述のことわざを「なるほどね」と感じる人が多くいる理由だと思います。
「VAKモデル」や「視覚優位」などのキーワードでリサーチをしてもらえれば、自分の学習スタイルがどのタイプなのかが分かるテストなどもあるので興味がある方はぜひ調べてみてください。因みに私は、例に洩れず視覚優位型でした。
人間がもつ五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)のなかでも、知覚できる情報の8~9割を担っているのが視覚なら、それを活かさないわけにはいきません。日本最大級の動画サイトであるニコニコ動画のおかげ(?)で、「Ban(禁止)」という英単語の意味を知る人も多くなりました。国連本部警備隊には、「Banned List」というものがあります。これは、過去に国連本部で何らかの問題を起こし、出入りが禁止されている人のリストです。詳細は話せませんが、本部の警備隊員は、Banned Listに載る人物が現れたらすぐ気付き、対応しなければいけません。そのために隊員たちがリストされた人たちの顔をどうやって覚えるかと言いますと、これがとても単純で、何度も何度も繰り返し写真を見ているだけなんです。警護チームでは、オフィスやスタンバイルームにBanned Listの情報が入ったデジタルフォトフレームが置いてあり、暇があれば見ています。毎日、何十回、何百回も繰り返し見ていれば、記憶力が良くない人でも覚えてしまいます。これは、警護(4号警備)だけでなく施設警備(1号警備)でも使えます。ただし、フォトフレーム内の情報を見るは、警備員だけに限る必要があります。それは、内部にいるかもしれないBanned Listに名前が載っている人物の関係者や、人権問題などに敏感な人が不愉快な思いをしないための配慮です。
他にも警護では、クライアントの家族や友人、アポイントメントに対して失礼な態度を取らぬように事前に写真を何度も見て、顔をインプットします。著名人であれば、ネットで検索すれば、難なく写真を見つけることが出来ます。著名人でなくても、最近はSNSの利用者がとても多く、かなりの確率で顔写真をオンラインで入手することが可能です。以前、国連本部警護チームで、実験として特定のフロアの名簿を入手し、ネットで検索したところFacebookの利用者が驚くほど多く7割以上の人の顔写真を入手することが出来ました。
他にもアドバンスが送ってくる行く先々の建物等の写真も当然ながら事前に何度も見返し、頭の中に映像としてインプットします。特にドライバーは、アドバンスがチェックしたルート(メイン、セカンダリー、エマージェンシー)を事前にグーグルマップやグーグルアースのストリートビュー等を利用し、スタートからゴールまでをビジュアライズしておくことで、全く走ったことがない道でも、日頃から運転している道のように落ちついて運転することが出来ます。医者は、手術前に何度も頭の中で手術をイメージすることで、本番でも失敗なくスムースに手術が出来ると言いますが、それと似ています。
自身の学習スタイルを理解し、何をどうしたら頭の中に有益な情報として残るのかを理解し実践することが、プロのボディガードには求められます。ボディガードになるのに特別な資格などは必要がありません。言い換えれば、素人でもすぐにボディガードになれてしまいます。実際、クライアントの周りに使用人のようについているだけの偽ボディガードも残念ながら民間の警護には少なくありません。そうならぬよう、偽ボディガードと一線を画すには、知識を有し、全ての行動に意味を持たせることです。地味でつまらないかもしれません。派手な格闘術や射撃ばかりに興味が行ってしまうのは仕方がないことですが、こうした地味な知識や技術は、格闘術や射撃よりも実際には役立ちますので、ボディガードを目指す方々にはこうしたことにも興味を持ってほしいと思っています。
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