ボイス

SecurityMagazine.comは英語のサイトなのですが、警備に関わる最新ニュースを発信しています。国内外関係なしに警備業従事者は、メールアドレスさえあれば誰でも無料でサブスクリプション登録が出来るのでオススメです。そのSecurity Magazineの2022年6月3日の記事「Using voice to improve your emergency evacuation plan」は、警護と警備が全くの別物だと考えている人も少なくないなか、警護が警備の延長線上にあることを再確認できるなかなか興味深い記事でした。

セキュリティのプロフェッショナルなら誰でも緊急避難には、明確な指揮系統、避難経路や緊急避難先の制定など綿密な避難計画案が重要なことは分かっています。しかし、どんなに素晴らしい計画案が出来上がっても、避難を要する際にその場にいる全ての人がそれを熟知していなければ意味がありません。定期的に避難訓練を行い、練度が高い従業員であっても訓練とは異なるシチュエーションに面した際には、どれだけ応用が利くかは分かりません。

著者が東京のホテルに勤務した際、消防訓練の一貫として避難訓練を数回実施しました。建物内の人へ避難を促すアナウンスは録音メッセージを利用していたのですが、そのアナウンス内容は「火事です、火事です。今すぐ避難してください」というとてもシンプルなもので違和感があったことを覚えています。避難誘導を担当するの従業員が、テキパキと各フロアに残る人の有無を確認し、適切な避難経路に誘導するので、アナウンスは出来るだけ短く簡潔なものが最善だという認識だったようです。しかし、これは残念ながら机上の空論でしかありません。緊急時のアナウンスは出来るだけ短く、そして簡潔が鉄則ではあります。しかし、このアナウンス内容では必要な情報が不足し過ぎています。避難誘導の担当者に何かあり誘導出来なかった場合、ホテルの避難経路を知らない客はただ逃げろと言われてもどこに逃げて良いか分かりません。アナウンスに録音テープを使うことは問題ではありませんが、いくつかのパターンを用意しておく必要があります。アナウンスには、①何が起きているので、②いつ③どこへ④どのように逃げるのかを明確にしなければなりません

①の何が起きているのか知らせなければ、避難先を間違う可能性があります。上層階での火事であれば、下層階へ移動し、そして建物の外へと非難します。逆に洪水であれば上層階に避難することも考えられます。このようにシュチュエーションによって避難先は異なります。②の「いつ」というのは、火事や洪水とは異なり、地震の場合にはすぐに避難せずにその場に待機した方が良い場合もあります。③の「どこへ」は、警備責任者は、建物の内の状況を素早く掌握するためにも、バラバラの場所に避難させずに事前に決めてある集合場所へと上手く誘導する必要があります。④の「どのように」の例が地震です。地震が多く、対策を幼い頃から学んできた日本人にとっては、地震の際にエレベーターを使わず階段で避難することも常識ですが、これはこれまでに地震を経験したことがない人にとって常識ではありません。自分の常識が人の常識だとは限らないので、避難方法を指示した方が良いでしょう。

Security Magazineの記事にもありましたが、結局どんなに優れたシステムが登場しようと、やはりボイス(声/言葉による指示)無しには最大の効果は得るこが出来ません。これは警護にも通じます。

これまでにも何度も書いていますが、警護は1人では出来ません。警護の基本は、Layer of Security、つまりチームで任務にあたります。脅威が増せば増すほど、警護ではレイヤー(人数)を増やし対応します。そして警護にはいくつかのフォーメーションがあり、警護は、リードやテールといったように各人担当のポジションを持っています。分かりにくかったらサッカーのフォーメーションやポジションのようなものだと思ってください。サッカーでも試合中に選手同士が声をかけている様子が見られます。どこから相手の攻撃をしかけてきているのかいち早く分かった人が、ボールを持った相手選手に近い選手に指示を出します。

警護でも全く同じ事をしています。例えばテール(最後尾)のポジションを担う警護は背後から近づく脅威に対して誰よりも早く気がつきます。他の人はまだ誰も気がついていないので、テールは脅威に応じてチームに声をかけます。例えば後方からナイフを持った人間が走りよってきているのなら、「ナイフ、リア」と叫べばチームは前方へ対象者を逃がすことが瞬時に分かります。これを例えば「ワ~」と声を出すだけだったり、「コンタクト、リア」なんて曖昧な表現だったりすると、チームメートは何かが起きているということだけしか理解できません。よって、何が来るのか自身で確認するひと手間が必要となるため、リアクションに遅れが生じ手遅れになるリスクがより高まります。ナイフやガンといったように脅威の指定はせずに、どのような脅威であっても全て「コンタクト」とコールするように指導しているところがあるのは知っています。しかし、銃とナイフでは、火事と洪水で避難先が異なるのと同様に、対象者を逃がす場所にしても、逃がす方法にしても異なります。瞬時に脅威の種類と方向を特定して、適切な指示をチームに伝えることは簡単ではありません。ですが、それが出来るように日々訓練するのが警護のプロです。


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